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目、再び

目にはまだ何か異物感が残っています。

ところで、今日はコロキウムがありました。
Purdue大のIan Shipseyさん。本業は素粒子実験の人なんですが、今日のコロキウムでは人工内耳によってどのように聾(ろう)の人に聴力が戻るか、という内容の話をしていました。
初めに他の先生からShipseyさんの紹介があって、その後でShipseyさんがご紹介ありがとう、みたいに言ってから「私は耳が聞こえません」と言ったときにはびっくりしました。20年ほど前に病気で聴力をなくしたのだそうです。
その後、耳が聞こえるのがどのような仕組みによるのか、ということを説明した後、電気刺激を用いて聴力を(部分的に)回復させる人工内耳の仕組みについて解説していました。
Shipseyさんも5~6年前にその手術を受けて、今ではかなりの程度まで人の話したことを理解できるのだそうです。なかなか感動的だったのは、手術の後で家に帰ってから12年ぶりに奥さんの声を聞き、聴力を失ってから産まれた娘さんの声を初めて聞いたというくだりです。
そのコロキウムの興味深かったところは、人工内耳を取り付けた人に音がどのように聞こえているのかというのをデモンストレーションしたことでした。普通の人が聞こえているようには聞こえないようです。例えて言うなら、モザイクのかかった絵を見るように粗く音が聞こえているのだそうです。だから、音楽を聴いてもほとんど音楽としては理解できないそうです。人工内耳をつけた人が聞いているような音を再現した音と、元となった音楽とを比べて流してくれました。Shipseyさん自身は自分にはこれらの音の違いは理解できないと言っていましたが、前者は元の曲がほとんどわからないほど奇妙な音になっていました。
人工内耳の技術は日々進歩しているようで、講演中にShipseyさんが区別できない音として流した二つの音(健常者にははっきりと違いが分かる)について、講演後の質問で別の人工内耳をつけた人が「自分には区別が出来た」と言っていました。(質問者は3ヶ月前に手術をしたのだそうです。)
なかなか興味深い講演でした。イリノイへ来てから聞いたコロキウムの中で一番印象的な話でした。講演後の聴衆の拍手がいつもよりもずっと長かったことが思い出されます。

ところで、Goldenfeldと採点の打ち合わせ。
東大で誰に統計物理を教わったのか、と聞かれたから統計物理あるいは統計力学と名のついた講義を教わった先生方を伝えたら、それなら大丈夫だろう、って言われました。おお、大丈夫なのか、と思いました。
あと、Sasaからは授業は受けなかったのか、って聞かれました。Sasaさんは以前Goldenfeldの元でポスドクをしていたとのことです。授業は受けたことないけど彼の書いた熱力学の教科書は読んだよ、みたいに答えました。
Goldenfeldは話してみるとなかなか良い人でした。
今日彼の統計物理の授業の初回があって、聞きにいったんだけど、最初に黒板に「55B.C.」と書いて、その年に何があったのか、と聞きました。誰かが「ローマ人がイングランドを侵略した年」みたいに答えて、Goldnfeldが「その通り」と答えて「イギリスの歴史の授業は常に55B.C.から始まる・・・」といった調子で始まる講義でした。もちろんその後は統計物理に話をつなげていきます。つなげ方が気になった人は僕に会ったときに直接聞いてください。

ところで大野さんの非線形物理の授業は非常に独特です。きわめて個性的です。誰かが授業を評してbizarreと言っていましたが、まさにそんな感じです。
まず、主な話のターゲットは複雑系なんですが、大野さんは「複雑系の話をするつもりだけど、私は複雑系をどのように定義すればいいのかわからない」という調子で始めます。そして「カオス、フラクタル、自己相似性など従来の研究者が複雑系だと思っている系は実は全く複雑系ではない」と続きます。どうやら真の複雑系は生物系に存在するのだそうです。
まだイントロで、本格的な話が始まるのは次の次の講義くらいからということです。

ところで先学期TAで教えていた生徒達が僕について評価をした結果が配られました。(授業評価アンケートのようなものです。)
不満のある生徒の多くは僕の英語について文句を書いていました。それは全くこちらが悪いので真摯に受け止めなければなりません。
たまに、素晴らしいTAだった、みたいに書いてくれてるコメントがあると非常にうれしくなります。クラスの前に立ったときにはもっと自信をもって話した方がいいよ、なんてコメントもいくつかあって自分の問題点がわかってためになります。
by t_oz | 2007-01-19 16:21