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古事記

ちょっと古事記の内容を知りたくなって本屋でたまたま見つけた武光誠『一冊でわかる古事記』を読んでみました。

確かに、新書一冊の中に古事記の主要な物語と解説をつめこんであってタイトル通りの内容にはなっているんですが、どうも僕には合わない本でした。というのは、作者の解釈が過剰に含まれていて、書かれている内容が果たして作者の解釈なのか、皆が認める形で古事記の中に書かれているのかがわからなくて話半分で読み進める形になってしまったからです。

例えば、「はじめに」において「『古事記』の登場人物がすべて、むやみに人間や動物を傷つけない優しい人びとであることに注目したい」なんて書いてあります。因幡の白兎の話で皮を剥かれた白兎に海塩を浴びて風に当たれと言った八十神はどうなるんだろう。本の中の他の部分の解説も、古事記の登場人物はみな優しい人たちだ、という前提に立ってその偏見でもって書かれているような気がしました。

他には、訳文としてイザナギとイザナミの結婚の場面でイザナミが「私の欠点は、用心深く控えめなことです」と言ったことになっていました。こんなことを言ったとは思えないがと思って原文(岩波文庫版)をあたってみると、訓み下し文で「吾が身は、成り成りて成り合はざる處一處あり」と書いてありました。これを上記の様に訳したのだとしたら、これは翻訳と言うにはあまりに著者の解釈が入りすぎているように感じました。
全編こういった調子でどうも信頼しながら読むことができませんでした。

意味の分からない書き方をしている箇所も多数ありましたが、例えば仁徳天皇陵について「仁徳天皇陵古墳は、有力な大王であった雄略天皇のためにつくられたものとみても誤りではあるまい」と書いてありました。これにはまいった。著者の考えとして「仁徳天皇陵古墳は、有力な大王であった雄略天皇のためにつくられたものであろう」と書くなら何も文句はありませんが、「誤りではあるまい」というのは、一体何を言いたいんだろう。雄略天皇のものであるかそうでないかのどちらかなんだろうから、誤りか誤りでないかのどちらかでしょう。

というわけで、あまり真剣には読めず、話半分の態度で、でも最後まで読んでしまいました。今度はもうちょっとバランスの良い解説書を探して読もうと思います。
by t_oz | 2012-08-18 16:45