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留学

中国人の友人らと話していて、なぜイリノイ大に(というかおそらく一般的にアメリカの大学・大学院に)日本人の留学生が少ないのかという話になりました。

彼らによると、中国ではアメリカの大学ではまあとにかくハーバードが一番有名で、金持ちや政治的有力者は子供をほとんどみなハーバードを初めとしたアメリカの一流の大学に留学させる、とのこと。なぜかというと、いくつか理由があって(これはそのとき僕と話していた中国人の考える理由だけれど)、中国の一流の大学に子供を入れようとすると過酷な入試を突破しなくてはならず、金持ち・有力者の子供といえども必ずしも良い大学に入れるとは限らない。それに対してアメリカの大学は大口の寄付を行ったり有力者のコネを使えば良い大学に楽に入ることができる。それならば、アメリカの一流大学に入らせる方が確実だし箔もつくからそういう選択をする、というのが彼らの話すところでした。あと、政治的有力者の場合は自国(中国)での失脚の可能性に対する保険もあるのだろうと言っていました。というのは、中国では有力者も常に失脚とは隣り合わせなので、妻や子供をアメリカに住まわせておけば、仮に中国で失脚し居場所が無くなったとしても家族を頼ってアメリカの亡命をすればその後暮らしていけるから、などとも言っていました。これらがどこまで真実かわからないけれど、まあ、僕の中国人の友人の考えはそのようでした。

政治的失脚の危険はともかくとして、日本でも金持ち・有力者はいるだろうから、そういう人たちの子供はどうして中国人のように財力・コネを使ってアメリカの一流大学に留学しないのか、と聞かれました。金持ち・有力者は東大にコネを使って裏口入学できるから、わざわざアメリカに来る必要は無いのか、とも聞かれました。東大の裏口入学はおそらくほとんど不可能だと思うよ、と言ったけれど、いや、そんなことはないだろうと言われました。東大というか日本の国立大学で裏口入学はあまりあり得ないと思うけれど、まあ、そう思うのは僕がナイーブすぎるからなのかもしれない。それはとにかく、日本の金持ち・有力者が有名大学に子供を入れようとする場合は一体現状どうしているのだろう。考えてみたことも無かった。

彼らと話していて強く感じたのは、中国人のアメリカ志向です。外国への留学となれば、ほとんどアメリカが唯一の選択。カナダもあり得るけれど、ドイツ・イギリス・フランスなどのヨーロッパあるいはその他の国々はほとんど選択肢にないと言った雰囲気。まあ、その気持ちは正直良く分かります。アメリカの大学の方が他国の大学よりも留学生に対してオープンで、情報も集め易い、仕組みも分かり易いし、留学に対する敷居が他国よりもずっと低いと思う。

もう一点、僕が感じたのは、というか、これは中国人・韓国人・そして日本人と留学について話す時僕が常々感じることなんだけれど、「中国人・韓国人はこんなにアメリカに留学しているのになぜ日本人の留学は少ないのか」という疑問が当然のものとして発せられるということ。こういう問いが自然に発せられるのは理解できるんだけれど、同時に、僕はこの問いが当然だとは全く思えないのです。しかし、このような問いは僕が先日話した中国人だけではなく、多くの日本のメディアでも発せられているように感じます。そこから「最近の日本人の内向き志向は云々」という議論とつながる。イリノイの物理学科を見れば留学生では中国人が圧倒的に多く、次はおそらく韓国人。イラン人も結構多い。日本人は非常に少ない。この状況では上記の問いは一見自然なものに思えるけれど、しかし、少なくとも僕の知る限りではイリノイ物理学科にイギリス・フランス・ドイツ・イタリア・オランダなどからの留学生は存在しません。僕の個人的感触では、日本の物理の研究レベルはこれらの西欧諸国と比べると勝るとも劣らない。西欧諸国からアメリカへの留学生が日本に比べても圧倒的に少ないというのは一体何を意味しているのだろう。これに関して先日ハーバードの学長のインタビューとされている文章をネットで見つけました。
留学生減少は「日本の危機」 - 三万人のための総合情報誌『選択』
この学長は「イギリス、フランスは確かに留学生は少ないが、ハーバードはそもそもイギリスの伝統をアメリカでも継ぐために創設されたから、イギリスからハーバードに留学する意味は、アジアから留学する意味と比べるとはるかに少ない。」「それは決して欧米との質の高低を意味するのではなく、文化、思考法が欧米とは異なるということだ。文化が異なる国からの留学生が減るというのは、学生にとっても決して望ましいことではない。 」と言っている。ブログで人の悪口は書きたくないんだけれど、残念ながらこの発言はあまりにも浅はかと言わざるを得ない。アメリカから日本への留学生は日本からアメリカに留学する学生に比べ遥かに少ない。もしこの学長がこれを問題と看做し、アメリカの学生も中国の学生のアメリカ留学熱を見倣い、どんどんアジアの諸大学へ留学すべきだ、と提言するならば、それは立派なことだと思うけれど、上記の発言からはそのような考えはみじんも読み取れない。この学長の発言からは、アジアの学生はアメリカの大学に学びにくるべきだと言う一方向性しか感じられない。

アメリカ人の内向き志向は、日本人に比べるとずっと強い、というのはイリノイで感じることです。日本人の留学が以前よりも少なくなっているとは言っても、なんとなく留学をしてみたいと思う日本人は結構多いように感じます。一方、アメリカ人と話していると、数ヶ月程度の短期なら良いけれど、数年単位の長期の留学はしたくない、百歩譲ってイギリスならまだ良いけれど、言葉の通じない外国に留学は嫌だ、という意見を聞くことが多いです。(というか、僕は、短期でない留学をしてみたいと言っているアメリカ人に会ったことがありません。留学なんてあり得ない、と言っているアメリカ人は何人か知っています。)実際、日本でも、ヨーロッパからの留学生はしばしば見かけるけれど、アメリカからの長期間の留学生はそれらに比べるとぐっと少ないように感じます。

僕は個人的には日本からアメリカへ留学する学生が減っているのは、自国の(日本の)教育の質が上がっていることの証拠であり、良いことだと思っています。(もちろん、この主張を確かめるには、留学生が減少し、かつ、日本人の知的レベルが減少しないことを確かめなければいけないのですが。)この意見に反対する人は多いだろうけれど、まあ、いろんな意見があるでしょう。もちろん一定数の留学生がいることは良いことだとは思います。しかし、アメリカという国は巨大過ぎるし、アメリカ人の極度の内向き志向もあって「日本人の留学」を考える上であまり向いていないんじゃないかと僕は思っています。比べるべきは他のアジア諸国やヨーロッパ諸国で、それらの国に対する留学生、あるいはそれらの国から日本に来ている留学生の数を調べ、それらの数を議論する方が健全な留学の議論ができるんじゃないか、と思っています。
by t_oz | 2012-07-05 14:54